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大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)11250号 判決 1989年2月09日

原告 青野義弘

右訴訟代理人弁護士 林正明

被告 中村榴

<ほか四名>

右被告五名訴訟代理人弁護士 酒井広志

主文

一  原告に対し、被告中村榴は一六八六万四〇〇〇円及び昭和六二年一二月一日から別紙物件目録記載の土地の明渡し済みに至るまで一か月九九万二〇〇〇円の金員を、被告中村恒善は五六二万一三三三円及び昭和六二年一二月一日から別紙物件目録記載の土地の明渡し済みに至るまで一か月三三万〇六六六円の金員を、被告中村泰雄は五六二万一三三三円及び昭和六二年一二月一日から別紙物件目録記載の土地の明渡し済みに至るまで一か月三三万〇六六六円の金員を、被告中村昭博は五六二万一三三三円及び昭和六二年一二月一日から別紙物件目録記載の土地の明渡し済みに至るまで一か月三三万〇六六六円の金員を、それぞれ被告中村不動産株式会社と連帯して支払え。

二  被告中村不動産株式会社は原告に対し、前項記載の被告らと連帯して、三三七二万八〇〇〇円及び昭和六二年一二月一日から別紙物件目録記載の土地の明渡し済みに至るまで一か月一九八万四〇〇〇円の金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、原告勝訴の部分にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

一  原告に対し、

1 被告中村榴は三一六五万四〇〇〇円及び昭和六二年一二月一日から別紙物件目録記載の土地の明渡し済みに至るまで一か月一八六万二〇〇〇円の金員

2 被告中村恒善は一〇五五万一三三三円及び昭和六二年一二月一日から別紙物件目録記載の土地の明渡し済みに至るまで一か月六二万〇六六六円の金員

3 被告中村泰雄は一〇五五万一三三三円及び昭和六二年一二月一日から別紙物件目録記載の土地の明渡し済みに至るまで一か月六二万〇六六六円の金員

4 被告中村昭博は一〇五五万一三三三円及び昭和六二年一二月一日から別紙物件目録記載の土地の明渡し済みに至るまで一か月六二三三万〇六六六円の金員

を、それぞれの金員を限度として被告中村不動産株式会社と連帯して支払え。

二  被告中村不動産株式会社は原告に対し、前項記載の被告らと連帯して、六六三〇万八〇〇〇円及び昭和六二年一二月一日から別紙物件目録記載の土地の明渡し済みに至るまで一か月三七二万四〇〇〇円の金員を支払え。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

四  仮執行宣言

(被告ら)

請求棄却・訴訟費用原告負担の判決

第二当事者の主張

(請求原因)

一  原告は別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という)を所有し、中村正次(以下「正次」という)に同土地を賃貸していたものであり、被告中村不動産株式会社(以下「被告会社」という)は同土地上に大阪市西成区千本南二丁目二六番地所在家屋番号二六番の一木造瓦葺二階建店舗他七棟の建物を所有して占有していたところ、原告は正次及び被告会社に対し右建物収去と本件土地の明渡し並びに同土地の不法占拠による将来の賃料相当損害金等を求める訴えを提起して、その控訴審(大阪高等裁判所昭和五六年ネ第四四五号事件・原審大阪地方裁判所昭和五五年ワ第七三二六号事件)において、昭和六〇年九月二七日、正次及び被告会社に対し建物収去土地明渡しとともに損害金についても昭和五五年四月一日から本件土地の明渡し済みまで一か月二七万六〇〇〇円の支払を命じる旨の判決が言い渡され、その上告審(昭和六一年オ第二八号事件)で昭和六一年六月二六日正次らの上告棄却の判決があり、右控訴審判決は確定した(以下、「前訴」というのは、これを指す)。

二  正次らはその後も本件土地の占有を続け、昭和六一年一一月一三日正次が死亡し、その相続人である妻の被告中村榴、子の同中村恒善、同中村泰雄及び同中村昭博が相続したが、その後もその状態は続いており、また、被告会社は同土地上の右建物を第三者に賃貸している。

三  昭和五五年四月一日以後土地価格の著しい昂騰、公租公課の増大等があり、本件土地の昭和六一年七月一日の時点における相当賃料額は四〇〇万円に達している。

そこで、昭和六一年七月一日以降の本件土地の不法占拠による損害を一か月四〇〇万円とし、これから前訴の判決により確定した一か月二七万六〇〇〇円を差引くと、一か月三七二万四〇〇〇円となるので、同日以降、被告会社は同金員を、正次の相続人らはその相続分に従った割合の金員を、原告に支払うべきである。

四  よって、原告は、

(1) 被告中村榴に対し、昭和六一年七月一日から昭和六二年一一月三〇日までの一七か月分の差額の合計額六三三〇万八〇〇〇円の二分の一である三一六五万四〇〇〇円及び昭和六二年一二月一日から別紙物件目録記載の土地の明渡し済みに至るまで差額の一か月三七二万四〇〇〇円の二分の一の一八六万二〇〇〇円の金員

(2) 被告中村恒善、同中村泰雄及び同中村昭博それぞれに対し、右一七か月間の差額の六三三〇万八〇〇〇円の六分の一である一〇五五万一三三三円及び昭和六二年一二月一日から別紙物件目録記載の土地の明渡し済みに至るまで右差額の一か月三七二万四〇〇〇円の六分の一の六二万〇六六六円の金員

を、それぞれの金員を限度として被告中村不動産株式会社と連帯して支払うことを求め、また、

(3) 被告中村不動産株式会社に対し、前項記載の被告らと連帯して、右一七か月間の差額の六六三〇万八〇〇〇円及び昭和六二年一二月一日から別紙物件目録記載の土地の明渡し済みに至るまで右差額の一か月三七二万四〇〇〇円の金員を支払うことを求める。

(被告らの答弁)

一  原告主張の請求原因一及び二の事実は認める。同三は争う。本件土地上の建物は原告と正次との本件土地の賃貸借契約が結ばれた当時から市場として多数の者に賃貸され、以来今日まで使用されてきているので、現実問題として被告らが借家人にその明渡しを求めることは不可能に近いことである。

二  本件訴えにおける原告の請求は前訴における原告の請求と同一であるから、本件訴えは既判力に抵触する不適法な訴えである。もし、これを認めるとすれば、二つの判決による二重の執行を認めることになり不当である。

三  原告が主張しているものは損害金であるから、賃料のように事情変更による増額請求というものはあり得ない性質のものであり、従って、その増額請求は認められない。

四  仮に、原告の請求が認められるとしても、建物収去土地明渡請求訴訟に併合請求された場合に認められる損害金の額は限定賃料相当額が通常であるから、それとの均衡からして、原告の請求に係る本件損害額は新規賃料相当額でなく、限定賃料の範囲に止めるべきである。

第三証拠《省略》

理由

一  原告主張の請求原因一及び二の事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、前訴において、原告は正次に対し同人との間の本件土地の賃料は昭和五四年七月一日から一か月四七万三五三八円に増額されたとして同日から同人との本件土地賃貸借契約が終了した昭和五五年三月三一日までの間の増額された賃料額と同人が支払った額との差額の支払を求め、併せて同人及び被告会社に対し本件土地上の建物収去同土地明渡しと同土地の不法占拠による損害金として昭和五五年四月一日から本件土地明渡し済みまで右賃料と同額の一か月四七万三五三八円の賃料相当損害金の請求をしたが、その控訴審判決は、原告と正次との間の本件土地の賃貸借契約における昭和五四年七月一日から同賃貸借契約が終了した昭和五五年三月三一日までの賃料は一か月二七万六〇〇〇円が相当であるとし、同賃貸借契約が終了した翌日である昭和五五年四月一日から本件土地明渡し済みまでの賃料相当損害金も一か月二七万六〇〇〇円の限度で認容したことが認められ、土地の不法占拠による損害を請求した原告としても、これに対する右判決も、判決言渡し後本件土地の明渡しが長期にわたって実現されず、その間の公租公課、土地の価格の昂騰、近隣土地の地代の変化等の事情をすべて斟酌して不法占拠による損害金の額を請求し、判断したものでないことは明らかである。

そして、《証拠省略》によれば、同控訴審判決は昭和六〇年九月二七日に言渡されたことが認められるところ、《証拠省略》によれば、本件土地の存在する地域は地下鉄四ツ橋線玉出駅及び岸の里駅、南海本線岸の里駅が近くにあり、住居地域として利便がよく、近年需要の高まっている地域であり、土地の価格も昂騰し、本件土地の昭和六一年七月一日の時点における新規賃料の相当額は前訴の控訴審が損害金として認容した額の約八倍強の二二六万円にもなっていることが認められるので、昭和六一年七月一日の時点では、前記控訴審判決の損害金の認容額は同事実審口頭弁論終結後の土地の価格の昂騰等の予測しない事情により不相当となったものというべきであり、従って、原告は本件訴訟において前訴の確定判決の認容額を超えるに至った部分の損害について不法占拠者に対しその賠償を求めることができるというべきである。

そこで、その賠償を求めることができる損害額について判断する。

《証拠省略》によれば、本件土地を昭和六一年七月一日に更地として敷金等の一時金の授受なしに一括賃貸したときの新規賃料は一か月二二六万円が相当であることが認められるので、昭和六一年七月一日以降の本件土地の不法占拠により原告が被る損害を一か月二二六万円と認め、これから前訴の判決により確定した一か月二七万六〇〇〇円を差し引いた一か月一九八万四〇〇〇円が本件請求において認められる損害額となり、従って、正次の相続人らは同金員につきその相続分に従った割合の金員を被告会社と連帯して、また、被告会社は右一か月一九八万四〇〇〇円の金員を正次の相続人らと連帯して支払わなければならないことになるので、原告の本件請求は、(1)被告中村榴につき昭和六一年七月一日から昭和六二年一一月三〇日までの一七か月分の差額の合計額三三七二万八〇〇〇円の二分の一である一六八六万四〇〇〇円及び昭和六二年一二月一日から別紙物件目録記載の土地の明渡し済みに至るまで差額の一か月一九八万四〇〇〇円の二分の一の九九万二〇〇〇円の金員、(2)被告中村恒善、同中村泰雄及び同中村昭博それぞれにつき、右一七か月間の差額の三三七二万八〇〇〇円の六分の一である五六二万一三三三円(但し、円未満切捨て)及び昭和六二年一二月一日から別紙物件目録記載の土地の明渡し済みに至るまで右差額の一か月一九八万四〇〇〇円の六分の一の三三万〇六六六円(但し、円未満切捨て)の金員を、それぞれの金員を限度として被告中村不動産株式会社と連帯して支払うこと及び(3)被告中村不動産株式会社につき、前項記載の被告らと連帯して、右一七か月間の差額の三三七二万八〇〇〇円及び昭和六二年一二月一日から別紙物件目録記載の土地の明渡し済みに至るまで右差額の一か月一九八万四〇〇〇円の金員を支払うことを求める限度において理由があることになる。

二  ところで、被告は、原告の本件請求は前訴の既判力に抵触し許されず、これを許すならば、前訴の判決と後訴の判決とによる二重の執行を認めることになり不当であると主張するが、前訴における原告の請求が事実審口頭弁論終結後も長く土地の明渡しが実現されないことを予測し、その間の土地の価格の昂騰等の事情をも考慮して土地明渡しまでの将来の損害金を請求しているものではなく、これに対する判決もまたその趣旨のもとに原告の請求を判断しているものであることは前記のとおりであり、その後予測し難い事情によりその認容額が不相当となるに至った場合には、前訴の請求は一部請求であったことに帰し、前訴の既判力は右の差額に相当する損害金には及ばないから、その差額の支払を求める本件請求は既判力に抵触せず、また、これを認めても被告の主張するような二重の執行という事態は生じないので、被告の右主張は採用できない。

また、被告は、原告主張の本件損害金は賃料とは異なるものであるから、その増額請求は性質上認められない旨主張するが、原告の主張している本件損害金は、被告らが本件土地を明け渡さないことにより原告がその使用収益を妨げられていることによって生じた損害であり、その損害が事実審口頭弁論終結後の予測しない事情により拡大し、明渡しの履行までその拡大した損害が将来にも及ぶことが予測されることから、その損害の拡大部分についての請求であって、法律上当然に請求しうるものであり、被告の右主張は採用できない。

また、被告らは、本件損害金は本件土地の限定賃料を限度とすべきであると主張するが、被告らは本件土地を正当な権原なしに占有しているものであり、かかる不法占拠がなければ、原告は本件土地を他に新規に賃貸するとか自己が使用するとかの最有効利用が可能であるのにそれを妨げられ、損害を被っているのであるから、その損害の額を限定賃料の範囲に制限される理由は全く、被告のこの点についての主張も採用できない。

三  よって、原告の請求は、前記認定の限度で理由があるのでその限度で認容することとし、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用につき民訴法九二条、八九条、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条を、各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 海保寛)

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